思春期男子の本音に爆笑『男子高校生の日常』の共感ポイント

バカバカしくてくだらない、でもあるある、わかるわかると感じてしまう思春期男子の心のうごきをリアルな日常をとおして描き、思春期男子の本音や悩みを笑いにかえた秀作『男子高校生の日常』から漫画の描き方を学ぶ

 

「なあ、彼女ってどうやったらできんの?」

配達員「これは、高校生の日常をコミカルに描いた漫画『男子高校生の日常』(山内泰延 著)の冒頭一コマめ、主人公タダクニのセリフだ。

漫画の話?とあなどってはいけない。この漫画には、思春期男子がバカバカしくも頭のなかをいっぱいにしてしまう悩みや本音がたくさんつまっている。

クラスの誰と誰が付き合ってるなんてウワサが聞かれる高校時代、まだ女の子とつきあったことのない男子にとって、気持ちを代弁してくれる強烈な共感ポイントをもった冒頭一コマめだ。」

高校生の主人公タダクニ、その友達ヨシタケとヒデノリは、毎日のようにタダクニの部屋に集まり、暇つぶしをしている。高校生ならよくある風景だ。退屈な毎日に刺激を求めている。

どうやったら彼女ができるのか、その答えを見つけようと、ついに3人はシュミレーションをはじめた。

ヒデノリ「そんなのお前、放課後の教室でだな・・・

一人残ってプリント仕分ける女子がいるだろ・・・

こんなときどうするタダクニ・・・

タダクニ「・・・貸せよ、手伝ってやるから半分貸せって・・・

( 以下、ネタばれがあります。)

◆『男子高校生の日常』山内泰延 著(スクウェア・エニックス)

○×県立真田北高校(男子校)に通う男子高校生の日常を描いたギャグ漫画。タダクニ、ヒデノリ、ヨシタケの3人を中心に、バカバカしくてくだらない、でもあるある、わかるわかると感じてしまう思春期男子の心のうごきをリアルな日常をとおして描いている。
ネットを中心に話題になり、単行本は全7巻発行され、2013年7月までの累計発行部数は230万部。1巻は全17話「男子高校生とスカート」「男子高校生と放課後」「男子高校生と怪談」「男子高校生と文学少女」「男子高校生と同伴少女」「男子高校生と旅立ちの朝」「男子高校生と凸面鏡少女」「男子高校生と友情パワー」「男子高校生と文学少女2」「男子高校生と伝統行事」「男子高校生と夏計画」「男子高校生と海の家」「男子高校生と温泉卓球」「男子高校生と夏の思い出」「男子高校生とラジオDJ」特別収録「お嬢様の日常」特別読切「女子高生は異常」を収録。

「なあ、ふと思ったんだけどスカートってどう思う?」

配達員「これもタダクニの部屋、3人の会話からでてきたセリフだ。男性は潜在的に女性がはいているスカートに、ある一定の興味と違和感をもっている。」

ヨシタケ「そりゃ お前 ありえねーだろ大体・・・

ヒデノリ「あれ腰の周りに布巻いてるだけでしょ?

ヨシタケ「全然隠せてないよな

毎日部屋におしかけられて迷惑しているタダクニは、2人とは対照的に冷静だ。事を荒立てずに、早く帰ってくれと思っている。

タダクニ「いやいや、中世から存在する立派な衣服だから・・・」

タダクニの言葉をよそに、ヒデノリとヨシタケの議論はどんどんエスカレートする。

ヒデノリ「いやだとしてもだよ パンツむき出しでそこら歩いてる訳だろ

俺だったら絶対耐えられん

ヨシタケ「あんな低防御力破廉恥だよ

ポスト「言われてみると・・・たしかに・・・(赤面)。」

配達員「漫画家ノートは漫画家になるためのアイデア・ノートだ。ここで、ボクたちが人気まんがを描くために必要だと考える”共感”についてもう一度確認してみよう。

共感(きょうかん、英語:empathy)は、他者と喜怒哀楽の感情を共有することを指す。もしくはその感情のこと。《wikipedia》
※喜怒哀楽は、人間のもつさまざまな感情。喜び・怒り・悲しみ・楽しみの四つの感情のこと。

他人の意見や感情などにそのとおりだと感じること。また、その気持ち
《kotobank》

読者が思春期まっただなかの男子だった場合はもちろん、思春期を過ぎたボクのような読者でも”あるある””わかるわかる”と感じる”共感ポイント”がストーリーの中にちりばめられている。

そしてここから男子には共感できるが、女子にはとうてい共感できない展開がはじまる。」

ヒデノリ「なあおい 妹のスカートを拝借できんか

タダクニ「何言ってる 無理に決まってるだろうが

ヨシタケ「あったぜ

タダクニ「お前ぶっ殺されるぞ

ヨシタケはあろうことか、タダクニの妹の部屋からスカートだけでなく、パンティーまで持ち出した。

タダクニ「おい履くのかよ!ていうか俺が怒られるからもうやめてくれ!

タダクニの制止も聞かずスカートを履きはじめるヒデノリとヨシタケ。しかし、スカートを履くことより同じ部屋で着替えることに気まづさを感じた彼らは、それぞれ別の部屋で着替えようといいはじめた。

早く終わらせて帰ってほしいタダクニもしぶしぶ着替えるはめになる。

配達員「女装に共感できる読者は少ないかもしれないけど、ノリでスカートをはくことを面白いと思う男子は少なくないだろう。」

履いた?」 「ああ」 「なんとかな・・・

ガラガラガラ・・・

ふすまをあけてスカートを履いてでてきたのは

タダクニだけだった・・・

タダクニ「死ねえええええええええええ

恥ずかしさで、赤面するタダクニ。

タダクニ「もうお前等帰れ!

しかしこの後、ヨシタケとヒデノリの意外な言葉でタダクニの心境が一転する。

ヨシタケ「結構似合ってるぞ

ヒデノリ「お前コレ普通に金稼げるんじゃねーの

ヨシタケ「イケてるイケてる

タダクニは3人のなかで一番女顔だ。ヨシタケとヒデノリの意外な言葉に、タダクニもまんざらでもない。

タダクニ「マジで?

タダクニ「いやそれはないだろう

ヨシタケ「何言ってんだマジでいけてるって自信もてよ

タダクニ「ど・・・どうかな

ダダクニは、女性っぽく内股になりスカートからでる足をくねらせた・・・

それだああ!

いいぞタダクニ心なしか体格も変わってきた!

お前男性ホルモンはどうなってんだ!

次のステップに行くぞ!

ついに3人が一致団結する。

ポスト「次のステップって・・・。」

配達員「この漫画の面白さは、正義のために悪を倒すことでもなければ、美男美女の恋の行方でもない。女性のスカートにたいする男子高校生ヨシタケとヒデノリの疑問に共感できない読者は、はじめから読むことをやめるかもしれない。

そして、予想外の展開で”面白さ”を、予想どおりの展開で”カタルシス”を感じさせてくれる。」

最初、スカートについてヨシタケとヒデノリが熱く語り、タダクニは興味がなかった。妹のスカートを持ち出されたことで、事を早く終わらせたかったタダクニは、しぶしぶスカートを履くことを了承した。

                 ↓

予想外の展開【1】(面白さ)
ふすまをあけてスカートを履いてでてきたのは、タダクニだけだった・・・
熱く語っていたヨシタケとヒデノリ2人は学ランのまま、スカートを履いてでてきたのはタダクニだけだった。タダクニははめられた。

                 ↓

予想外の展開【2】(面白さ)
ヒデノリとヨシタケにイケてる、可愛いとほめられたタダクニは、最初嫌がっていたにもかかわらず、足をくねらせ女になった。

しかし、盛り上がる3人をよそに、妹が帰宅していた。

何もしらず一致団結し、次のステップにすすむ男子3人。

そして妹が部屋のふすまを開けた。

妹「・・・・・・・・・・・・」

兄がブラをつけている・・・

妹に気づき凍りつく3人・・・

妹「どうした続けろ

ヨシタケ、タダクニ、ヒデノリ「ご、ごめんなさい

予想外の展開【3】(面白さ)
タダクニの妹は、兄が自分のスカートやブラをつけている姿をみて、悲鳴をあげるわけでも怒りだすわけでもなく、ドスのきいたセリフをはく「どうした続けろ」・・・

                 ↓

予想どおりの展開(カタルシス)
予想どおり男子3人は妹にぶっ殺される。

配達員「カタルシスは「心の浄化作用」とも言われる。

カタルシスは、心の中に溜まっていた澱(おり)のような感情が解放され、気持ちが浄化されること。心の中にあるわだかまりが何かのきっかけで一気に解消すること《三省堂辞書サイト》
https://dictionary.sanseido-publ.co.jp/topic/10minnw/036katharsis.htmlから引用

文学作品などの鑑賞において、そこに展開される世界への感情移入が行われることで、日常生活の中で抑圧されていた感情が解放され、快感がもたらされること。
《kotobank(デジタル大辞泉)》
https://kotobank.jp/word/カタルシス-45030から引用

配達員「漫画家ノートでは、カタルシスを読者がストーリーを読みすすめるうちに感じる期待や緊張、不安、怒り、苦悩などの感情を解消することで得られる快感としておこう。

共感ポイントで感情移入した読者は、予想外→予想外→予想外というストーリー展開に面白さを感じ、漫画を読んでいる間ある一定の緊張状態を保っている。

しかし、妹が帰宅することで”やっぱり怒られた”という読者にとってはある意味予想どおりの展開と、妹の”どうした続けろ”という予想外のセリフの面白さがあわさって、今まで積み重ねてきた緊張が一気に解消してカタルシスを感じさせたと考えられないだろうか。

悪を倒すヒーローものだって、読者は最後にはヒーローが勝つとわかっている。万一、ヒーローが負けて悪が勝って終わったら、読者はカタルシスを感じないだろう。

『妖怪ウォッチ』が小学生の悩みを”共感ポイント”にしていたように(『妖怪ウォッチ』につづけ!売れる漫画を描く方法)、『男子高校生の日常』は思春期の男子高校生の「あるあるそういう悩みやノリ」というのを”共感ポイント”にしている。

ターゲット読者の年齢の違いやカタルシスの種類は違うけど、”日常にある悩みや疑問”を共感ポイントにしている部分では同じ種類の漫画と言えるかもしれないね。

~漫画家ノートNo.10~
自分の漫画を読んでくれる読者を意識した共感ポイントの設定が大事!

●ターゲット読者が小学生か高校生か、男の子か女の子か、年齢や嗜好にあわせた共感ポイントを設定しカタルシスへとストーリーをはこぶ。
●共感ポイントは読者をスムーズに感情移入させる役割がある。
●予想外の展開で”面白さ”を、予想どおりの展開で”カタルシス”を感じさせる

ポスト「あれ?そういえば、彼女ってどうやったらできんのって話どうなったの?」

配達員「ああ、ごめんごめん。スカートに夢中ですっかり忘れてた。

この話も予想外の展開で面白さを、予想どおりの展開でカタルシスを感じるストーリー展開になっていたよ。

詳しくは、漫画を買って読んでみてね。」

ポスト「ずるい!」


男子高校生の日常 コミック 全7巻 完結セット (ガンガンコミックスONLINE) 山内 泰延 (著)
○×県立真田北高校(男子校)に通う男子高校生の日常を描いたギャグ漫画。タダクニ、ヒデノリ、ヨシタケの3人を中心に、バカバカしくてくだらない、でもあるある、わかるわかると感じてしまう思春期男子の心のうごきをリアルな日常をとおして描いている。思春期男子の複雑な?気持ちが理解できない女性のみなさん、これを読めば笑って理解できる・・・かもしれない。

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