『進撃の巨人』第一話に学ぶ、読者を夢中にさせるストーリー”最初の事件”

配達員「ねえ、まんがポスト。『進撃の巨人』って知ってる?

講談社の別冊少年マガジンに連載中の巨人と人間の戦いを描いた諫山 創先生の漫画なんだけど、単行本の発行部数が2014年8月の時点で4000万部を突破している大人気漫画なんだ。」

ポスト「そんなに売れてるならボクも読みたい!」

配達員「今回は『進撃の巨人』の第一話から、売れる漫画のストーリー展開がどうなっているのか考えてみたいと思うんだ。特に読みきり作品で投稿や持込み、まんが賞に応募する新人作家にとって、短い物語の中で、読者や編集者をいかに物語に惹き込んでいくのかは大事なことだよね。プロの作家さんの人気漫画を分析することは自分の漫画を描くうえで参考になると思うんだ。」

ポスト「むむむ・・・おもしろそうだ。いきなり城壁で囲まれてる人間社会に巨人が襲ってきたぞ。どうなってるんだ・・・」

配達員「それが『進撃の巨人』における”最初の事件”だ!」

ポスト「『進撃の巨人』における最初の事件???」

 

読者の興味を惹きつけ、最後まで読ませる”最初の事件”


配達員
「シナリオや物語論を勉強したことのある人なら物語は変化を読ませるって聞いたことないかな。漫画にかぎらず映画、小説、ドラマなど物語は必ず変化が描かれている。例えば30ページの漫画があったとして、夜中にある男が寝ているシーンからはじまり、最後の30ページまで微動だにせず寝たまま終わりなんて漫画は誰も見ない。

日常のほのぼのした家族もようを描いた人気漫画『サザエさん』は、たいがい平凡な日常から始まる。そして個性豊かなキャラクター達が平凡な日常を崩すちょっとした事件をひき起こす。例えばカツオがいたずらをして、サザエさんや家族を巻き込む事件を起こしたり、タラちゃんがおつかいから帰ってこないといった具合に。

この平凡な日常からそれを崩す最初の変化を”最初の事件”とすると、世界210カ国以上の国と地域で放送され、社会現象となったアメリカのテレビシリーズ『LOST』の”最初の事件”は、シドニー発ロサンゼルス行きオーシャニック815便が太平洋上の無人島に墜落し、奇跡的に生き残った生存者は人種も職業も違う48名・・・というシーンだし、同じく世界的に大ヒットした海外ドラマ『24』でいえば、CTU(テロ対策ユニット)に勤めるジャック・バウアーのもとに、テロリストによる大統領暗殺計画が浮上したり、アメリカ本土への核攻撃につながる事件が起こるなどがそれにあたる。

そしてこの”最初の事件”は、読者や視聴者がその後その物語に惹き込まれていくかそれほどでもないか、読み進めるかやめるかの非常に重要な最初の山場なんだ。」


ポスト
「じゃあ『進撃の巨人』における”最初の事件”は巨人が城壁を襲ってくるシーンになるんだね!」


配達員
「それがもう少し複雑なんだ。ここで『進撃の巨人』の第一話をよ~く見てみよう(第一話ネタバレ要素があります)。」

◆『進撃の巨人』(第一話)あらすじ

物語は超大型巨人が50mの城壁に囲まれた人間の居住地を破壊するシーンから始まる。100年前に人類は巨人に食い尽くされた。巨人は人間を無差別に捕食する。少数の生き残った人たちは巨人の身長をはるかに越える50mの城壁で居住地を囲み、その中で100年間生きながらえてきた。
主人公エレンはそんな城壁の中でくらす外の世界に憧れを持つ少年。将来は犠牲を覚悟して壁外の巨人領域に挑む調査兵団に入団し、世界中を探検する夢を抱いている。ところがその調査兵団が外の世界から帰ってくる。壁外で一体の巨人と遭遇し100人の兵士で戦いを挑むも敗走。壁内にたどりつけた生存者は20人にもみたなかった。
そんな現実に住民は外の世界を否定し、城壁内での安全な暮らしを優先すべきと考えていた。エレンの母や幼馴染の少女ミカサは調査兵団に希望をみいだすエレンに反対する。エレンの友人アルミンも同じく外の世界に希望を持っているということで異端者扱いをうける。
「100年壁が壊されなかったからといって今日壊されない保障なんかどこにもないのに・・・」アルミンがエレンにそう発言したときだった。地面からの強い突き上げとともに50mの城壁を越える超大型巨人があらわれたのだ。

配達員「下の図はこのあらすじをボクなりにまとめたものだんだ。左の表は『進撃の巨人』第一話(総54ページ)のページごとの出来事を書きうつしたもの。一方、右の表は作品の中で前後している出来事を時間軸(通常の時間のながれ)で整理したものなんだ(調査兵団が壁外で巨人と戦うシーンと、エレン、ミカサ、ハンネスの登場シーンは同時並行的でどちらが先に起こったかは判断がつかないのでわかりやすい形にしてあります)。

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黄色い部分が”最初の事件”。日常生活をおくるエレンたちの裏で調査兵団が一体の巨人に遭遇し、戦闘するシーンがこれにあたるんだけど、『進撃の巨人』の場合、これが先頭ページから描かれている。

このページ先頭に”最初の事件”をもってくることは、早い段階で強い印象を与え、読者を物語に惹きこむ効果があると思うんだ。しかも戦いの結果がこの段階で判明していないため、読者は心のどこかでどうなったんだろうというモヤモヤした気持ちを残したまま読み進めることになる。

その結果がわかるのが中間の山場(オレンジの部分〔調査兵団の帰還。100人で巨人と戦うが生存者は20人にもみたないシーン〕)の部分。エレン、ミカサ、ハンネスが日常生活をおくる平凡な日常のシーンを間にはさんで、中間の山場までの物語を牽引している。もし平凡な日常から始まり、しかもそれが退屈な内容だったら途中で読まなくなる読者もいるかもしれない。」


ポスト
「ねぇ配達員、実際の漫画では右側の図の赤い部分の一部が、最初の事件より前に描かれてるけど・・・」

配達員「そうなんだ。50mをこえる超大型巨人が人間の住む城壁を破壊するシーン、第一話でいえばここが最高の山場(クライマックス)なんだけど、一部のシーンが切り取られるカタチで一番前のページにもってきてあるんだ。

これは、最初の事件とクライマックスの一部を先頭ページにもってくることで、より読者の興味、関心を最初の部分でつかむようにしているんじゃないかな。クライマックスの一部が先頭にあることで、これまた読者はあいつはなんだったんだと最後まで読み進めなきゃわからないという衝動にかられる。

ダブルに設定された”最初の事件”が、調査兵団vs巨人は平凡な日常を間にはさむかたちで中間の山場まで、城壁に襲い掛かる超大型巨人の部分は物語全体を包みこむかたちで最後のクライマックスまで、結局2重の伏線が最後まで読ませる牽引役を果たしているんだ。

『進撃の巨人』の魅力はいろんなところにあると思うけど、ストーリー展開ひとつとっても諫山 創先生のセンスを感じるね。」

~漫画家ノートNo.5~
必ず”最初の事件”をつくること。効果的であれば、クライマックスの一部を扉より前にもっていくと、読者を夢中にさせる一つの方法になる

魅力ある”最初の事件”をつくること。その事件の結末を物語の牽引する材料に使うってことで、読者が夢中になるストーリーの要素ができる。『進撃の巨人』にかぎらず、自分が面白いと思う映画や小説、漫画を研究することでそのエッセンスを学びとることができる。最初の事件はありきたりじゃつまらない。読者にとって本当に面白いか、最後まで読ませる力があるのかチェックするのも大事かもしれないね。


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