世界的人気まんが『ドラえもん』から人気漫画の描き方を学ぶ

配達員

「人気まんが」をかこうとする時、かき手はふつうの人でなければならない…」

【引用元】『藤子・F・不二雄のまんが技法』(小学館文庫)より

「こう言ったのは『ドラえもん』の原作者である藤子・F・不二雄先生だ。」

ポスト「『ドラえもん』といえば日本だけでなく全世界で1億7000万部以上(2000年度末時点《出版月報》)を売り上げ、世界数十カ国でテレビアニメ放送された超有名なまんがだよね。そんな大人気まんがを描いた藤子・F・不二雄先生が、人気まんがのかき手は”ふつうの人”だなんてボクたち凡人まんが家志望者にとっては勇気づけられるぅ~!!」

配達員「おいおい・・藤子先生の言う”ふつうの人”っていうのは理由があるんだ。

今回は藤子先生の世界的大人気作品『ドラえもん』を例にとって、人気まんがを描く方法を探ってみようよ。」

 

つまらない漫画にたりないのは”キョウカン”


配達員
「そもそもまんがの”人気”ってなんだろう?」

ポスト「そんなの簡単じゃん!
”人気”ってのは たくさんの人が面白い って言ってくれることだよ!
えっへん!!」

配達員「さすがだなぁまんがポスト。
藤子先生は、”ふつうの人”の意味とあわせて、人気についてこう書いている」

人気があるまんがということは、大勢の読者が喜んで読んでくれたということです。つまり、そのまんがのかき手と読者のあいだに、共感を持つ部分がたくさんあったということなのです。ひじょうにかたよったものの見方や考え方をする人は、大勢の人の共感をえることができないということはいうまでもありません。「ふつうの人であれ」といったのは、そういう意味なのです。」

【引用元】『藤子・F・不二雄のまんが技法』(小学館文庫)より

ポスト「なるほど~!」

配達員「先生の言葉でボクが注目したのは、”まんがのかき手と読者のあいだに、共感を持つ部分がたくさんあった”という部分なんだ。」

ポスト「キョウカン!?」

配達員「すこし難しい言葉だけど、大事なことだと思ったから共感について調べてみたよ。

共感(きょうかん、英語:empathy)は、他者と喜怒哀楽の感情を共有することを指す。もしくはその感情のこと。《wikipedia》
※喜怒哀楽は、人間のもつさまざまな感情。喜び・怒り・悲しみ・楽しみの四つの感情のこと。

他人の意見や感情などにそのとおりだと感じること。また、その気持ち
《kotobank》

配達員「これを、秘密道具『フエール銀行』の話を例にとって考えてみたんだ。

◆ドラえもん『フエール銀行』あらすじ

むだ使いをしすぎておこずかいが10円になってしまったのび太君。鼻水をたらし涙を流しながら激しく後悔する姿にドラえもんは「フエール銀行」という小型のレジのような道具を出す。フエール銀行はお金をあずけると一時間に1割の利子がつく超高金利銀行。10円が一時間後には11円に、二時間で12円10銭、三時間で13円31銭、八時間で倍になり、一日で約100円、一週間あずけっぱなしだと9千万円くらいになるという夢のような道具なのだ。
ドラえもんは貯金の大切さをのび太君にわかってほしくて道具をだしたのだが、のび太はただ金に目がくらみ預金する。ところが貯金した直後に町でSF映画「スペースウォーズ」のプラモデルをみつけてしまう。輸入品で1つだけのプレミアもの。ほしくてたまらない。さっそく預金をおろしたくなるがまだ一時間しかたっていない。ドラえもんはプラモの金額5千円になるまで4日かかるからそれまで待ちなさいとさとす。
一方、スネ夫が同じプラモデルをねらっていると知ったのび太は、フエール銀行に”かし出し窓口”があることを思い出す。超高金利銀行だけあって、なんと一時間に2割の利子をつけて返済しなければいけないというヤミ金もまっさお。ところが「利子をとられるといってもお金がなければとられようがないじゃないか」と都合よく考えたのび太はドラえもんの忠告を無視して5千円を借りてしまう。
スネ夫をだしぬいてプラモデルを買い、気を良くしたのび太だったが、事態の深刻さに気づいていなかった。一時間ごとに着ているものが消えていたのだ。恐ろしくなってドラえもんに相談すると、利子が払えないと銀行が持ち物を強制的に徴収するという。つぎつぎに持ち物が消えていきパニックにおちいるのび太。そこに救いの救世主があらわれる。北海道のおばさんがやってきて正月分のお年玉をのび太君にくれるという。お金を返すため急いで銀行にかけつけるドラえもんとのび太だったが、あと一歩のところで返済の時間になり、のび太は丸裸にされてしまう。最後のオチは裸にされるその瞬間をしずかちゃんに見られてしまうというもの。 う~ん。児童まんがにしてはエッチだね。

配達員「ストーリーを分けて見ていこう。

まずは最初の展開、”最初の事件”。(”最初の事件”についてはこちら

むだ使いしすぎておこずかいが10円に・・・」

ポスト人ごとだとは思えない!

はずかしながらボクも・・・今月使いすぎちゃって・・・」

配達員「そうなんだ(笑)。おこづかいのピンチは、のび太君にかぎらず多くの人が経験したことがあることだよね。人間は自分が経験したことであれば他人の気持ちを理解しやすいんだ。つまりたくさんの読者がストーリーにはいっていきやすい導入部をつくってるんだ。これは藤子先生のいう、”共感”にあたる。

今月のおこづかいが、3万円あって何に使おうかより、10円しかないどうやって生活していこう・・・のほうが、断然多くの人の共感を得やすいんだ。」

配達員「ふたつめの展開

ドラえもんは「フエール銀行」という小型のレジのような道具を出す。フエール銀行はお金をあずけると一時間に1割の利子がつく超高金利銀行。10円が一時間後には11円に、二時間で12円10銭、三時間で13円31銭、八時間で倍になり、一日で約100円、一週間あずけっぱなしだと9千万円くらいになると いう夢のような道具なのだ。」

ポストボクもほしい!!!10円じゃなくて全財産の100円あずける!!一週間でいったいいくらになるんだ・・・うしし・・・」

配達員「全財産100円だったんだ(笑)。10円あずけたら一週間後には9千万円になるなら、100円を預けたらいったいいくらになるんだろうってついつい考えちゃうよね。この自分だったらどう使おうか考えることも”共感”しているといえそうだよ。未来の秘密道具はみんなが欲しいと共感しやすいものばかり。藤子先生はちゃんと子供たちに共感されやすい道具を考えて登場させているんだ。

(そんな空想の道具に共感しないよ!なんて人もいるかもしれないけど、ドラえもんのメイン読者層は小学生だということを考えると共感する子供のほうが多いのはあきらかだよね。)」

配達員「そして最後、クライマックス

かえすあてもないのに銀行からお金を借りて5千円のプラモデルを手に入れたのび太君。お金をかえしてくれないので、銀行が持ち物を強制的に徴収する。つぎつぎに持ち物が消えていきパニックにおちいるのび太君。最後には丸裸にされてしまい、その瞬間をしずかちゃんに見られてしまう。

貯金の大切さを学ばせようと、道具をだしたドラえもんの考えとは裏腹に、欲深い行動をしたのび太君が最後に罰をうけるという展開になっている。借りたものは返さなきゃいけないというメッセージが含まれてるけど、これはどちらかというと大人社会の一般常識だ。一見すると子供まんがというイメージのドラえもんだけど、社会的なルールを守らないと最後に自分にふりかかってくるということを教えることで、子をもつ大人の共感も得ているんだ。のび太君が道具を悪用して最後に痛い目にあうというオチはこの回に限らない。ドラえもんの人気の秘密は大人の共感にも支えられてると言えそうだよ。」

借りたものは返さなきゃいけないというわりとまじめな内容のオチだけど、持ち物を強制的に徴収してのび太君が泣いておしまい・・・というストレートな展開にはなっていない。それだとお説教っぽくて面白くない。のび太君を丸裸にして、しずかちゃんにその瞬間を見せるというシーンにすることで読者が思わず笑っちゃう面白いオチにしているんだね。

多くの人が共感する内容でもストレートすぎるとお説教っぽくて面白くない場合がある。そういったときはみんなが笑えるようなシーンに少しひねると共感度がアップして面白くなるのかもしれない。」

配達員「人気まんがに必要な、読者が共感するポイントがたくさん盛り込まれてたでしょ?」


ポスト
「しずかちゃんはのび太くんの裸のどこまで見たんだろうか・・・(赤面)」


配達員
「いや、それは今回の話の筋とは関係ないけど・・・」

~漫画家ノートNo.6~
人気漫画にはたくさんの人が共感するポイントがある

つまりたくさんの人が共感するポイントを作品の中に盛り込むことができれば、ボクたち凡人まんが家志望者も人気漫画家になれるチャンスが!
=キャラクターのセリフや行動、ストーリーに起こるさまざまな出来事を見た読者が、そのとおりだといっしょに喜ぶ
=キャラクターのセリフや行動、ストーリーに起こるさまざまな出来事を見た読者が、そのとおりだといっしょに怒る
=キャラクターのセリフや行動、ストーリーに起こるさまざまな出来事を見た読者が、そのとおりだといっしょに哀しむ
=キャラクターのセリフや行動、ストーリーに起こるさまざまな出来事を見た読者が、そのとおりだといっしょに楽しむ
こんなふうに感じる読者が多ければ、多いほど、そのまんがは”人気まんが”と言えるかもしれない。自分の作品の具体的にどの部分が、対象とする読者層の何パーセントに響く共感要素をもってるのか考えてみることが大事。心をとらえる読者の数で大人気漫画になるか、中人気漫画か、小人気か、それともあまり人気がとれそうにないのか予想することができる。
とりあえず今はこう定義しておいて違っていたら後で加筆、修正することにしようよ。」

配達員「藤子・F・不二雄先生は人気まんがを描くための条件として、”ふつうの人であれ”ということ以外にもう一つ大事なことがあると書いている。それについてはまたの機会に話し合おう。」


『藤子・F・不二雄のまんが技法』(小学館文庫)
全世界で1億7000万部を売った「ドラえもん」をはじめ、「パーマン」「オバケのQ太郎」「エスパー魔美」など数多くの大ヒット作品を世におくりだしたまんがの王様、藤子・F・不二雄先生が40年間漫画家として試行錯誤するなかで身に付けた創作の技術が惜しみなく書かれています。これを読めば藤子先生の40年間積み上げたノウハウを知ることができます。時に自分の才能を疑い、劣等感にさいなまれ、落選したときには選者に見る目がないとか、他の入選作品をくだらない作品だと批評するときもあったと正直に書かれており、あのドラえもんの藤子先生ですら数多くの試行錯誤があったことがうかがわれます。先生のお人柄が伝わってくるオススメの一冊。
定価:552円+税

藤子・F・不二雄大全集 ドラえもん コミック 1-20巻セット
(藤子・F・不二雄大全集)
子供から大人まで楽しめる夢と冒険がたくさんつまった誰もが知る世界的な人気作品。この大全集に収録された作品は1326本。てんとう虫コミックスに未収録でこの全集に収録された単行本初収録の作品は134話あったよ。毎日1話ずつ読んでも3年以上ドラえもんの世界を楽しめるじゃないか。藤子不二雄先生のアイデアの宝箱。プレゼントに!Myコレクションに!3年間ドラえもんの世界にひたれること間違いなし。アマゾンさんに配送してもらうのが楽。

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